shape of water感想(ネタバレ有)
だいぶ前に見た映画ではありますが、shape of waterの感想などを書いてみようかと思います。
詳しい考察は他のレビューサイトをご覧頂くとして、イントロダクションは以下の通り。
「パンズ・ラビリンス」のギレルモ・デル・トロが監督・脚本・製作を手がけ、2017年・第74回ベネチア国際映画祭の金獅子賞、第90回アカデミー賞の作品賞ほか4部門を受賞したファンタジーラブストーリー。1962年、冷戦下のアメリカ。政府の極秘研究所で清掃員として働く女性イライザは、研究所内に密かに運び込まれた不思議な生き物を目撃する。イライザはアマゾンで神のように崇拝されていたという“彼”にすっかり心を奪われ、こっそり会いに行くように。幼少期のトラウマで声が出せないイライザだったが、“彼”とのコミュニケーションに言葉は不要で、2人は少しずつ心を通わせていく。そんな矢先、イライザは“彼”が実験の犠牲になることを知る。「ブルージャスミン」のサリー・ホーキンスがイライザ役で主演を務め、イライザを支える友人役に「ドリーム」のオクタビア・スペンサーと「扉をたたく人」のリチャード・ジェンキンス、イライザと“彼”を追い詰める軍人ストリックランド役に「マン・オブ・スティール」のマイケル・シャノン。アカデミー賞では同年最多の全13部門にノミネートされ、作品、監督、美術、音楽の4部門を受賞した。
(シェイプ・オブ・ウォーター : 作品情報 - 映画.comより)
公式サイト
http://www.foxmovies-jp.com/shapeofwater/sp/
予告編
感想
いい年してモンスター映画で号泣してしまいました。
何よりジャンル映画がアカデミー最優秀作品賞に選ばれたという事に、終映後の新宿歌舞伎町で人目をはばからず感激して泣いてしまい、連れをドン引きさせました。ローガンがアカデミー脚色賞にノミネートされただけでもニュースだったのに。本当に良い時代になったよ。
備忘録(ネタバレ)
概要
物語の舞台背景を1962年の冷戦下のアメリカとして描かれますが、実際は現在のアメリカを覆う人種、宗教、ジェンダーのあらゆる対立と分断を、議論が起きないように御伽噺として落とし込んでます。
声を出せないイライザは 、意見を封じられたマイノリティの人々の象徴として描かれていて、半魚人(以下、彼)を救おうとするイライザに協力する売れない画家でゲイの隣人ジャイルズ、イライザの同僚で黒人のゼルダも1962年と言う時代では声を上げることが出来ないマイノリティの人達(イライザや彼とは違う意味で声を出せずに、社会から虐げられ沈黙を強いられている人達、監督は彼らをthe others<非主流派>と呼んでいます)として描かれてます。
彼を追い詰める軍人のストリックランドは、現在のトランプ政権下のどのマイノリティにも属さない大部分の白人(いわゆるWASPと呼ばれる人達)の権化であり、作中描かれるもう一体のモンスターでもあります(本当に恐ろしいのは私たち人間ね)
緑色が作品全体のキーワードとして登場します。研究所内はアマゾンの奥地のような雰囲気。ジャイルズがゼリーの広告の持込で描いた絵に対しても赤いゼリーではなく、「緑は未来だよ」と言われて緑色のゼリーに直すよう指示されてしまします。
監督のインタビューによると、緑という色には未来を象徴させているとの事。どこかの都知事かよ!
肯定的な未来というよりは、物語の中のアメリカが向かおうしている未来と捉えたほうが良いかもしれません。
彼は不完全な私じゃなく、ありのままの私を見てくれる
口を利く事ができない今作のヒロイン、イライザが半魚人と恋に落ちるという人魚姫を男女逆転させた設定ですが、イライザと彼が結ばれてもイライザは声を取り戻す事もなければ、彼が人間の姿に戻る事もない”アンチ美女と野獣”を目指したと監督はインタビューで語っています。
仰るとおりです(笑)
イライザが口を利けないのは我々からすれば、能力の欠落に映ります。
You'll never know, if you don't know now
劇中何度もアリス・フェイのYou'll Never Knowが流れます。イライザが言葉で想いを伝えられないもどかしさを象徴しています。
しかし、人間が言語を喋るかどうかなどこれまで関係のなかった彼にとっては口を利く事が出来ない事を、能力の欠落として認識していない事にイライザは気付くのです。
これは彼に対する我々の視点も同様の姿勢を求められます。
アマゾンの奥地から来て現地人からは神として崇められている
当初彼に関して語られていることはこれだけです。
仲間はいるのか?研究所にはどういう経緯で連れて来られたのか?半漁人である事以外に彼が何者であるかは分かりません。ひょとしたらイライザの様に、同じ種族において何か欠落しているのかもしれません。しかし彼がイライザをありのまま受け入れたように、観客である我々も彼をありのまま受け入れなければなりません。
ストリックランドに言わせれば「神は私のような(アメリカ白人男性の様な)姿をしている」らしいでのですが・・・。
あなたは未来に生きる男です
「トイレで用を足した後、手を洗う奴は軟弱な野郎だ!」と口走り(ちょっと何言ってるか解んないですね)妻とセックスの最中に、彼女口を塞ぐ事で快楽を得る。相手を黙らせ、征服する事に快感を覚える。セクハラとパワハラのセ・パ交流戦状態(ちょっと何言ってるか解んないですね)
そんなストリックランドはマッチョなアメリカの体現者であり、力こそ正義、男尊女卑上等、勝利以外は無価値、とにかくアメリカ白人男性の邪悪さを煮詰めて濃縮したような 男です。これは明らかにトランプ政権下のアメリカを投影しています。
劇中ではトランプの愛読書でもある「The Power of Positive Thinking」を読み耽っているし、彼に薬指と小指を食いちぎられた際に”I still have my thumb, trigger finger, and pussy finger”と、残った3本の指をこう表現してしまう野卑な人間性。
歪んだ上昇志向の持ち主で彼には未来しかありません。物語途中で成功者の証としてティール色のキャデラックを買ってご満悦な彼の未来を止める赤信号は見当たりません。ストリックランドにカーディーラーが囁きます。
「あなたは未来に生きる男です」ーーーそう、未来はオールグリーンなのです。
いつまでまともな男であることを証明し続けなければならないのですか
イライザと仲間達によって研究所から彼に逃げられる物語中盤。そこから始まる、オールグリーンだったはずのストリックランドの転落。
ストリックランドの緑色の未来を止めるのは、緑の補色であり、愛情を表す赤。彼と結ばれたイライザが身に付けた赤にはそんな意味合いがあると思います。
彼に逃げられた責任を追求され「宇宙にお前の形をした穴が空くぞ。お前はここではない見知らぬ世界で暮らすことになる」と上官に脅され、あっという間に追い詰められていきます。
朝鮮戦争でのたった1度の失敗を挽回するため、強い男して勝ち続けるために、ストリックランドが、そして今のアメリカが向かおうとしている未来は、終わりのないプレッシャーに晒され続ける無限の地獄なのです。ストリックランドの悲鳴はアメリカの悲鳴でもあるのです。
お前は神か!?
追い詰められたストリックランドの千切れた指は遂に化膿し、最後には壊死して繋がることはなく、ストリックランドは何かを吹っ切るように自ら壊死した指(本来掴み取るはずだった成功や未来の暗喩でしょう)を食いちぎります。
その様は最早、彼と対を成すもう1人のモンスターです。一方で彼は物語の中盤から終盤にかけて幾つもの奇跡を起こし神性を現し始めます。終盤に対峙する彼とストリックランド、さながらサンダ対ガイラの様。そこで彼が起こす奇跡はキリストの復活をなぞらえたものですし、それを目の当たりにしたスト リックランドは「お前は神か!?」と絶望とも取れる言葉を残します。掻き切られた喉元から愛情を表す赤い血を流しながら。
監督もインタビューでも言っていましたが、彼は救世主であり、伝道師なのです。
Shape of Water
愛の形は水の様に一定の形をもちません。
さらに冷えれば固まるし、熱すれば気化してどこかへ飛んで行ってしまいます。
監督はそんな愛を神にダブらせています。
目には見えないけど、形はないけど、確かに彼とイライザを包み込んでいます。愛という赤い服と共に。そんな事を監督は一遍の詩として、ジャイルズのモノローグに託して終わります。
あなたの形は見えなくても、
私の周りにあなたを感じる。
あなたの存在が、私の目を愛で満たす。
それは私を謙虚にする、
あなたは、どこにでもいるから
おまけ
イライザ役のサリー・ホーキンスはギャレス・エドワーズ監督の「GODZILLA」にも博士役で渡辺謙と共演してました。モンスターとは縁がある方ですね。
ジャイルズ役のリチャード・ジェンキンスは「キャビン」というホラー映画に出演していて、そこでも半魚人に絡む事になります。こちらの半魚人は、恐ろしくも爆笑してしまいます。
どちらも興味があれば是非。